ホモデウス 下

「ホモデウス(下)」ユヴァル・ノア・ハラリ著 (河出書房新社/2018/9/6)

自由意志は存在しない

生物学者によると、生物は遺伝子やホルモン、ニューロンに支配されたアルゴリズムにすぎないと言われています。

そしてそれは人間も例外ではありません。

おそらく、ほとんどの人がそのような考えには直感的に反対すると思います。

「私達は自らの自由意志に従って行動しているのであり、他の動物や機械とは異なる」と。

しかしそれは誤っています。

脳スキャナーを使った実験によると、人間の脳内の決定を示す神経の活動は本人がその選択を自覚する数百ミリ秒から数秒前に始まるそうです。

つまり私達は、無意識的に欲望を感じ取ってそれに従って行動しているに過ぎないのであり、そこに自由な意思など存在しないのです。

人間はAIに取って代わられるのか

人間がアルゴリズムに過ぎないというなら、私達は高度な知能を持ったAIやアルゴリズムに代用されることになります。

しかしここで大きな疑問が生じます。

果たして人間は高度な知能を持ったアルゴリズムに代用可能なのでしょうか?

この問いに答える鍵となるのが人間の意識の存在です。

人間の行動や意思は環境圧や遺伝子など生化学的要素で決定されるが、それに伴う意識や感情は今のところ解明されていません。

なぜ人間は意識や感情を持つのでしょうか?

適切な判断を下すためには意識や感情は必要ありません。

自動運転は私達が運転するよりもはるかに正確に判断をし、走行するがそこに意識は介在しません。

むしろ意識や感情が妨げとなって適切な判断を下せなくなることもあるでしょう。

つまり、意識は合理的な判断を下すには不要なものだと言えます。

もし、高度な知能を持ったアルゴリズムが社会に普及したら、真っ先になくそうとするのは人間の心なのかもしれません。

アルゴリズムに対する人間の優位性

一見、非合理で不要なものに見える人間の意識ですが、ここに人間の、高度な知能を持ったアルゴリズムに対する優位性があります。

進路に悩みを抱えた友人から相談を受けた場面を想像してみましょう。

高度な知能を持ったアルゴリズムなら、膨大なデータから最適な進路を瞬時に判断し、提示することでしょう。

しかし、その友人はその答えを聞いて満足するでしょうか?

きっと不満を持つことだと思います。

往々にして人間が悩みを相談するときは答えだけではなく、共感やその決断に至るまでの過程に生じた感情に耳を傾けて欲しいからであることが多いです。

アルゴリズムは最適な結果にしか関心がなく、結果に至る過程や原因は示してくれません。

ましてや、非合理な感情に配慮することなどありません。

つまり、この点において人間は高度な知能を持ったアルゴリズムに勝るのです。

人と人との関係は非合理的で複雑な感情が入り混じっており、いくら高度な知能を持ったアルゴリズムでも理解することは難しいのです。

AIが人間の職を奪うことが危惧されていますが、結局、人と人とが関わる職は残り続けるであろうし、そこが人間に残された高度な知能を持ったアルゴリズムに対する唯一の聖域なのではないでしょうか。