自由と権力についての省察

「自由と権力についての省察」アクトン卿著 

アクトン卿と聞いて、彼の顔が思い浮かぶ人はそう多くないと思われます。

しかし、彼の言葉を耳にしたことがある人は結構いるかなと思います。

代表的な言葉に、「権力は腐敗する。絶対的権力は絶対に腐敗する」という言葉があります。

彼は歴史家として生涯をかけて、人類が自由を獲得していく過程を明らかにしようと試みました。

その中で得られた彼の考察は、第2次世界大戦中に全体主義に対する警告のように捉えられました。

現代でも、トランプ大統領プーチン、また安倍首相も国のトップとして権力を高めているように思えます。

そんな時代に生きる私達にとって彼の考察を学ぶことは大きな意味を持つのではないかと思います。

自由の歴史

アクトンは歴史を自由が拡大していく過程だとみなしました。

確かに歴史を俯瞰すると、フランス革命による身分制の撤廃、奴隷解放、女性の参政権の獲得など現代に近づくにつれ、多くの人々に自由が拡大しました。

今でも、さらなる女性の権利の向上や、昔は禁じられていた同性愛者に対しても権利が与えられ、自由が拡大しています。

しかし、すべてが歴史の流れ通りにうまく行っているわけではありません。

トランプが大統領になったのは白人の低所得者層が多数支持したためであり、彼らの多くは自国第一主義であり、差別的な人も少なくありません。

他者の自由を制限する方向にアメリカは傾いているとも考えられそうです。(短期的ですが) 

アクトンは自由を「成熟した文明の傷つきやすい果実」と表現しています。

つまり、自由が制度の中に根付くのには時間がかかり、根付いた後も破壊や腐敗の可能性をはらんでいるということです。

現代では多くの自由が達成されていますが、維持するだけでも多大なコストがかかると考えられます。

自由とは

アクトンは自由を「権威や多数派や習慣、そして他人の意見の影響に反して、自分が義務だと信じることを誰にも邪魔されずにできるという保証」と定義しています。

さらに、彼は自由に対して明確な言葉を残しています。

自由はより高度な政治的目的に到達するための手段ではない。自由それ自体が高度な政治目的である。

この言葉を踏まえると、自由が最上の政治的価値だということになります。

現代社会では、以前よりはましでもまだまだ改善される余地があるというのが現実です。

実際に日本においても、女性の国会議員の割合の低さや世界報道自由度ランキングで67位になる(2018年)などまだまだ完全に自由になったとは言い難いなというところです。

 

アクトンは社会の繁栄のためには道徳的なキリスト教の土台が必要だと主張していました。

この主張のために、今ではアクトンの主張はあまり顧みられなくなりました。

しかし、彼の主張は時代の制約を受けていたと考えられます。

現代風に言い直せば、制度や枠組みにとらわれずに、国民一人ひとりが何らかの道徳的基盤(宗教の代替物となる)を土台にしようといった感じです。現代では制度(システム)的な解決法が主流な感じがあるのでやはり、相容れない感じは拭えない気がします。